桐夫のブログ 2007.10
多くのメールをありがとうございます
dr-kilio 2007/10/01 01:02:01
昨夜から行っている桐夫のお葬式には、大勢の方からお別れメールを頂いています。
今更ながら、桐夫が皆さんにどれだけ愛されていたのか再認識しました。
こうしている間にも、新しいメールが続々と届いています。
本当にありがとうございます。
桐夫も、さぞかし喜んでいることと思います。
最後まで苦しい思いをした桐夫にとって、今は皆さんの温かい言葉に囲まれて、久しぶりの安らかな時間を過ごしていることでしょう。
それから、私に対する励ましの言葉も数多く頂きました。私にまでお心遣いを頂いて、恐縮しています。ありがとうございます。
あまり遺体を動かすのは、良いことではありません。
けれど、どうしても気になって、先ほど桐夫の太ももの傷を見てしまいました。
傷口は、正確な治療で知られる桐夫からは考えられないくらい醜い縫合でした。
まるで、子供がいたずらで縫ったかのような縫合部。ブログに書かれていたように、二回にわたって縫合をしたため、さらにひどい状態になっていました。
その縫合部を見ていると、その時の桐夫の苦しみがひしひしと伝わってきます。
私は、その傷口に手を置いて、もう過ぎ去った桐夫の苦しみが、少しでも私に乗り移ってくれないものかと願いました。
あの時、桐夫の苦しみの一端を受け持つことができなかった自責の思いから、私は傷口にいつまでも手を置いていました。
深い悲しみが、私の中に満ちていきます。
献花台の携帯にまたお別れメールが届きました。
深い悲しみが、部屋の中に満ちていきます。
7月10日の日記
dr-kilio 10/01 02:05:04
子供の頃の桐夫の思い出は、以前書かせてもらいました。
当時の私にはよく理解できなかったのですが、確かに桐夫の中にはあのとき、別の人格が存在していました。
Kilioという、利発で残酷な子供。
それは、私が名前を与えてしまったことによって生まれた化け物でした。
けれど、あの夏が過ぎ、桐夫は簡単なカウンセリングに数回通っただけで、普段の生活に戻りました。
桐夫の家庭がどうなったのかはよく知りません。
ただ、桐夫からあの夏のピアノの部屋で感じたような脅威を感じることは、もうありませんでした。
今回、私が初めて違和感を覚えたのは、桐夫にM.K.の本を返し、イタリアンレストランで食事をした時でした。
桐夫のブログを読むと、それは7月10日になっています。
肉類をほとんど口にしない桐夫が、その日に限って積極的に肉料理を注文していました。
体全体から感じる雰囲気も、うまく説明できませんが何か違っていました。
決定的だったのは、誰かが家に入り込んでいる、と桐夫が話したときでした。
桐夫は論理的に話しているようでしたが、聞いている方には、とても現実味のある話とは思えませんでした。
最初、私は桐夫がからかっているものだと思ったほどです。
けれど、桐夫はいたって真剣でした。
私が今度家に行こう、と言ったのは、桐夫の過ちを確認したかったからでした。
何故、彼がそんな風に考えるようになったのか。
店を出て、ふと不安になって振り返ると、桐夫の背中が心細そうに消えていくところでした。
声をかけようとしてやめました。
何を言ったらいいのか、言葉が出てこなかったからです。
でも、その時、私は桐夫に何かを言いたかった。
それを言えたら、あるいはその2日後に起こったことを防げたのかもしれません。
今、桐夫のブログを読み返すと、そう思えてならないのです。
今回の出来事を食い止めることができたとしたら、それは私の役割だったのですから。
あのとき、桐夫もきっと何かを言いたかったのでしょう。
7月10日の桐夫の日記を読むと、私が見送った桐夫の細く寂しい背中が思い出されます。
→次の夜
誰もいない
dr-kilio 2007/10/01 03:44:14
こうして桐夫の家に一人いて、じっと静寂に包まれていると、何かの気配を感じることがあります。
けれど、振り返っても、そこには誰もいるはずがありません。
ただ、他人の家に一人でいるというのは不安を誘うには十分です。
桐夫の遺体を前にしていると、またしても29本目の歯のことを考えてしまいます。
遺体の口を開けて歯を抜くなどということが、許される行為であるはずがありません。
でも、どうしてもその思いに囚われてしまうのです。
やはり、私はどうかしています。
これでは、桐夫の二の舞になってしまうとも限りません。
振り返っても、そこには誰もいないのです。
→次の夜
歯を抜くべきか
dr-kilio 2007/10/02 01:34:00
引き続いて桐夫のお葬式は続いています。
今日は遺影の前に、「Kirioの日記」と「Killioの日記」を置きました。
照明を少し調整して、桐夫の写真が前よりは見られるようにしてみました。メールをもらえると、携帯の着信ランプでぼんやりと桐夫の輪郭が見えると思います。
お別れのメールは、以下のアドレスまでお願いします。
???@???
監視カメラのアドレスは、以下の通りです。
www.ghost-cam.com
さて、皆さんから多くのメールをいただいております。桐夫もさぞかし喜んでいることと思います。
そんな中で、私が桐夫の29本目の歯を抜くべきかどうか悩んでいることに対する意見もたくさんありました。
意見は二つに分かれています。
桐夫を苦しめた歯を抜いてやるべきだ、歯は魔除けになるから抜くべきだ、という意見と、遺体の口の中から歯を抜くなどという非人道的なことはやるべきではない、という意見です。
今は、まさに賛成と反対が半分ずつといったところです。
その割合は、私の気持ちと同じです。
私も、その二つの思いの間を往ったり来たりしています。
桐夫と一緒にいられるのも、あとわずかです。
それまでには結論を出さなくてはならないんですが、果たしてどうしたらよいものでしょうか。
今日も一度は抜こうと、桐夫の口を開きました。
しかし、そこから一歩踏み出すことはできませんでした。
頭の中で思うことと、実際に行うことの間には、大きな隔たりがあるということを改めて認識しました。
それでも、私は桐夫の遺体から歯を抜くべきでしょうか?
奇怪な文字の羅列
dr-kilio 2007/10/02 02:51:01
皆さんから数多くのメールをいただいて、感謝しています。
そんな中で、気になるメールをいくつかもらっています。それは、みんな同じ内容です。
私の書いているこのブログに、奇怪な文字の羅列が現れるというのです。
もちろん、私はそんなものを書いた覚えはありません。
そして、私は気づいてもいないのです。
最初は、何かの間違いだと思っていました。
けれど、あまりに何通も同じ内容のメールが来るので、間違いだということもないでしょう。
しかし、一体誰がそんなことを。
一連の出来事は決着がつき、私にはそこに何も怪異なことはないという結論に達しています。
でも、皆さんからの指摘には、今は論理的に答えることができません。
こうして、この家に桐夫の遺体と二人でいて、時々何かの気配を感じるようなことはあります。
けれど、それは桐夫のブログを読んだために、自分の中に恐怖の種子が生まれているだけのことです。
本当にそこに誰かがいるようなことはありません。
でも、皆さんからの指摘は、まるで私だけが見えていない何者かが、私の背後を横切っているかのようではありませんか。
皆さんの警告
dr-kilio 2007/10/02 05:02:32
いまメールを見たら、また謎の文字がブログにアップされていると教えられました。
けれど、私が確認しても、そこには何もありません。
皆さんは、私の身を案じてくれています。
早くこの家から出た方がいい、という警告のメールも多いです。
その文字の羅列を見ていない私にとっては、皆さんの警告もいまひとつ実感が湧きません。
しかも、今は桐夫のお葬式の最中です。
そんなに簡単に、この場を離れるわけにはいかないでしょう。
私には、桐夫を偲ぶ会の代表としての責任があります。皆さんからもメールが送られてきています。
それに、このお葬式の間だけは、桐夫の近くにいてあげたいのです。
多少、気にかかることがあったとしても、あとわずかな間だけのことです。
お葬式の延長
dr-kilio 2007/10/02 22:15:26
本日22時で桐夫のお葬式は終わる予定でしたが、惜しむ声があまりに多いため、少しだけ延長します。
献花台は、本日深夜まで設置しておきます。
お別れメールも、明日の朝8時くらいまで受け付けます。
できるだけ多くの方が、最期のお別れをしてもらえますよう、祈っています。
正しい選択
dr-kilio 2007/10/03 01:57:35
おかげさまでお別れのメールを沢山いただいています。
献花台の桐夫の遺影も、昨日より見えやすくなったのではないかと思います。
特にメールの着信ランプがついたときは、顔立ちがある程度見えるのではないでしょうか。
今夜の遅い時間、皆さんが寝てから、献花台はそっと片づけます。
もうすぐ、桐夫をお別れです。
私はまだ桐夫の歯を抜こうかどうか迷っています。
桐夫のブログのなかでも、似たような情景に出会いました。
8月17日の日記に、それはあります。
鍵屋の死体から奥歯が抜かれているのを、桐夫が気づく場面です。
それと同じことを、私はやろうとしているのでしょうか。
皆さんからも、様々な意見が寄せられています。
その意見がそれぞれ納得のいくものであるだけに、私はますます迷っていってしまいます。
何が桐夫にとって最良の選択で、何が私にとって正しい方法なのでしょうか。
これを逃すと、もう機会がないということが、私の判断を鈍らせているのかもしれません。
嫌な気配
dr-kilio 2007/10/03 02:46:04
本当に嫌な気配を感じます。
一体、この家になにがあるというのでしょうか。
桐夫にあの歯が生えている限り、それは消えないのかもしれません。
そう考えると、桐夫の歯を抜くべきなのかもしれません。
鍵屋の妻の言うとおりだとすれば、抜いた後は強い魔除けの力を持つということになります。
桐夫の体にある限りは、悪しき存在であるのかもしれません。
また、背中に寒気が走ります。
皆さんが教えてくれていた「友引」という言葉も気になります。
こんなことは考えるべきではないかもしれません。
お別れ
dr-kilio 2007/10/03 04:10:22
さすがに疲れて眠りかけていたら、また不気味な文字がブログに現れたというメールが来ました。
慌ててチェックしましたが、また見ることはできませんでした。
嫌な気分は消えていません。
桐夫と一緒にいること部屋は、どんどん空気が澱んできているような気がします。
皆さんに一連の出来事を説明しなくてはならないのに、このように怯えていては話になりません。
こんなことは今までなかったのに、全くどうかしています。
もっと冷静に、皆さんと桐夫のために、彼を送り出す儀式をしてあげなくてはならないのに。
全くどうかしています。
これから献花台を片づけます。
お別れメールは、朝9時くらいまであと数時間は受け付けます。
いよいよ、皆さんと桐夫とのお別れです。
→次の夜
悪いタイミング
dr-kilio 2007/10/04 01:53:40
皆さんが眠っている間に献花台は片づけて、桐夫のお葬式は終了しました。
多くのお別れメールをいただいて、誠にありがとうございます。
桐夫もさぞかし喜んでいることと思います。
まだ夏の始まりの頃、桐夫とイタリアンレストランで食事をしたことは、以前ここに書きました。
私は、あのときに確かに桐夫に違和感を覚えていました。
それは、小学校の頃のあの夏休みのKilioに感じていたものと似ていました。
誰かが家に入り込んでいるにしては、不自然すぎます。その不自然なパズルに、Kilioの存在を組み入れると、私の中では素直に納得できるものになったのです。
私が泊まりに行きたい、と言ったのは、その確認のためでした。
ところが、泊まりに行く前に、事態は一気に悪くなり、最初の殺人が起こってしまいました。
それ以降、以前のように桐夫と喋ることはできなくなってしまいました。
桐夫は私を避け、秋葉原に買い物に行っていたにもかかわらず、東京にいなかったとあからさまな嘘をつくようになりました。
そんな桐夫を見たのは初めてです。
もし嘘をついたとしても、もっと巧妙だし、もっと自信に溢れていました。
その時の桐夫は、粗雑で投げやりでした。
嘘とわかっていてかまわないから、もう自分にかまわないでほしい。そんな雰囲気を前に押し出していました。
私は少し時間を置いて、翌週にIを誘って泊まりに行くことにしました。
それも、わざと週末を外して、月曜日にいきなり玄関のドアを叩いたのです。
桐夫が油断しているときの方が、様々なことがわかると考えたのです。
けれど、それは間違いでした。
タイミングが悪かったのです。
私とIがでかけたのは、満月の夜だったからです。
あのとき私が
dr-kilio 2007/10/04 02:59:35
今でも、時々考えます。
Iと二人ででかけた時、私は助かり、Iは殺されました。
あのとき、蛾が食卓の上にやってこなければ、Iではなく私が殺されていたのでしょうか。
あの晩、実際にどのようなことが起こったのか、私もよくわかってはいません。
三人で食事をしながら、私は桐夫に子供ができたことを報告しました。
桐夫の顔が暗くなり、口数が少なくなったことを覚えています。
その後です。
忌まわしい大きな蛾が何度も照明に当たって、その鱗粉がスープに落ちました。
私は、気分が悪くなってトイレに入り、しばらくその中にうずくまっていました。
その間に、Iは殺されていたのです。
トイレから出た私は、Iや桐夫を探しましたが、家のどこにもその姿はありませんでした。
その晩、私は帰るしかありませんでした。
Iの携帯電話に連絡を取っても、いつも留守番電話になるばかりです。
私は、桐夫を恐れ始めていました。
何故か、桐夫に電話する気にはなれませんでした。
→次の夜
以前とは違う関係
dr-kilio 2007/10/04 21:34:54
Iと二人で桐夫の家に訪れた晩、何か重大なことが起こったことはわかっていました。
私が連想したのは、小学校の夏休みに密室で育まれた化け物であるKilioの存在でした。
その想像の半分は当たっていて、半分は外れていました。
桐夫の中に生まれていたのは、Kilioよりももっと凶暴な人格だったからです。
子供の頃、桐夫の前歯の裏に生えていた小さな塊が成長して1本の歯に育ってしまったように、もう一人の人格も大きく成長していきました。
私はその存在を恐れて、なかなか桐夫に電話することができませんでした。
8月6日に桐夫から電話をもらったときも、正直恐れの方が先に立っていました。
私は桐夫の口から真実を聞き出したいと思っていましたが、桐夫も私の知っていることを聞きたがり、お互いに出方を窺っているうちに話が終わってしまいました。
その時には、もう私たちの関係は以前とは違っていました。
私の子供と桐夫の人格
dr-kilio 2007/10/04 23:41:58
桐夫のブログを読み返してみて思うのは、私に子供ができたことが、桐夫にとって大きな衝撃だったということです。
桐夫にもう一つの人格が生まれたことと、私に子供ができたこと。それは、一見似たことのように思えますが、実際は全く別の方向を向いたことでした。
私たちは、全く同時期に、全く違った形で自分とは別の人格をこの世に生み出そうとしていたのです。
私に子供ができたことが、桐夫の別の人格をより強いものにしたことは確かでしょう。
私と桐夫は、深い絆を持っていました。だからこそ、お互いに大きな影響を与え合っていたのです。
ある時は共鳴し、ある時は反発し。
今回の流れは、この共鳴と反発が混じり合い、大きな悲劇へと繋がってしまったのだと思います。
だからこそ、桐夫の苦しみが私自身の苦しみのように感じられて仕方がないのです。
8月12日のこと
dr-kilio 2007/10/05 00:39:51
桐夫のブログを読み返すと、彼が何回も私に助けを求めようとしているのがわかります。
彼がこだわっていたのは、客観的な証拠でした。
一連の出来事があまりに突拍子のないものだったために、確実な証拠を掴んでから私に相談したいと考えていたようです。
それが、監視カメラに写る女の霊の映像でした。
それさえ撮影できれば、私に相談することができると彼は考えていました。
今から考えると、それはどうでもよかったことです。一日でも早く、私に相談していてくれたら、こんなことにはならなかったのに。
私は、意を決して8月12日に桐夫に会いに行きました。
ブログの中でもそれは触れられています。
桐夫が帰宅すると、空の植木鉢が逆さに置かれていた、と書かれています。
長い時間、そこに誰かが座っていた、と桐夫は書いています。
確かに、そこには誰かが座っていました。ただ、桐夫は鍵屋が座っていたと考えましたが、実際は私が座っていたのです。
桐夫が帰ってくるまで、かなり長い時間、私はそこで桐夫を待ち続けました。
待っている間に、私はある人物に出会います。
それが、鍵屋でした。
邪魔
dr-kilio 2007/10/05 04:02:17
嫌な空気が漂ってきています。
これ以上、私は書かない方がよいのでしょうか。
何者かが邪魔をしているような気がします。何の根拠もありませんから、それに屈することは納得できません。
ただ、今夜はここまでにしておいた方がいいかもしれません。
→次の夜
友引
dr-kilio 2007/10/05 22:44:04
今日は、友引です。
皆さんからいただいたメールの中で、私に警告を与えてくれているメールも多くありました。
特に目についたのが、ブログに奇怪な文字の羅列が現れる、というものでした。
文字の羅列では、しばしば「友引」という言葉が出てくるというのです。
それがどういう意味なのか、誰にもわかりません。
ただ、「友引」には注意した方がいい、というのが多くの意見でした。
今日は、友引です。
私は今夜、桐夫の29本目の歯を抜こうかと考えています。
桐夫の父親
dr-kilio 2007/10/05 23:01:44
桐夫の父親は厳しい人でした。
桐夫の学校生活や学習態度、家での過ごし方、そのすべてを細かく見ていました。
厳格で理論的で、その考えに揺るぎがありませんでした。
この揺るぎのなささえなければ、桐夫との関係ももう少し良好だったかもしれません。
彼が開発した歯列矯正器具は、迫力のある醜さでした。
それを取り付けられた者の尊厳は、1分間もしないうちに踏みにじられる、そのくらい圧倒的な器具だったと言えます。
当時の医療用具は、現在ほど繊細さを持っていませんでした。子供たちはちょっとした傷でも、見た目に大仰な処置を施されていました。
そんな風潮の中にあっても、その歯列矯正器具はひどいものでした。
たとえ、一日だけ取り付けることで、その後一生美しい歯並びが確保できるとしても、多くの人は躊躇したことでしょう。
ましてや、一日で済むわけがありません。
それを取り付けられたことで、桐夫の心がどれほど傷ついたかしれません。
桐夫の父親の考え方に欠陥があったとすれば、彼の美意識が直線的であった、ということでしょう。
父親に対する反発心が決定的になったのは、この歯列矯正からでした。
さらに自分が実験台にされているということが、桐夫の気持ちを大きく傷つけました。
桐夫の歯並びは、父親にとっては許し難いものだったに違いありません。
歯列矯正は、桐夫への愛情という形を取りながら、父親の美意識の強要としか桐夫には感じられなかったはずです。
そんな桐夫にとって、最大の反抗の証が、前歯の裏に少しだけ頭を出している29本目の歯だったのです。
それだけは、父親が手を触れることのできない存在でした。父親が28本の歯を自分の美意識に従って矯正したとしても、実は矯正し切れていない1本の歯が残る。その1本の歯によって、桐夫は父親の美意識から逃れることができたのです。
桐夫は、少しだけ頭を出しているその歯を舌の先で触ることによって、父親の呪縛から逃れていたのです。
桐夫の29本目の歯は、父親に隠していた桐夫の自我だったとも言えます。
父親の抑圧が強ければ強いほど、桐夫が隠していたもう一人の桐夫は、父親に反撥する存在に育っていきました。
父親が大きな力で28本の歯を矯正しようとすればするほど、29本目の歯は隠れたところで育っていったのです。
父親の社会的な地位を失墜させたのは、このようにして育っていった29本目の歯、すなわち父親の知らない「Kilio」だったのです。
使命
dr-kilio 2007/10/05 23:24:44
桐夫に、「Kilio」という名前をつけたのは私です。
だから、私にはKilioを見届けなくてはならない責任があります。
桐夫のお葬式の時に、私は29本目の歯を抜くべきかどうかを、皆さんに問いかけました。
その答えは様々でした。
もうじき、桐夫を埋葬しなくてはなりません。
私の名付けたKilioは、私の手の届かないほど大きく凶暴になってしまいました。
けれど、それを抜いて処分するのが、私の使命にちがいありません。
これから、桐夫の口を開けて、29本目の歯を抜くことにします。
友引Y
dr-kilio 2007/10/05 23:47:54
血鼠怨二九歯獣抜刑殺錐夫矯Y殺闇歯抜肉病矯友引鬼閉暴怨怨怨友引Y?夜刑錐殺虐医抜歯○切夫Y死鬼怨殺殺殺殺殺殺怨○刑鼠歯二九△女療闇獣Y友引呪呪呪友引呪友引呪友引呪友引呪死鬼怨○錐刑鼠歯二九抜?殺九夜女家父?桐夫殺怨医鬼本怨刑二新呪靴錐夫美暴九△女療闇?破靴死怨怨本刑女斬夫呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪友引Y呪靴靴靴
見えました
dr-kilio 2007/10/05 23:59:44
見えました。初めて、皆さんの言う謎の文字の羅列を目撃しました。
この不気味な文字の羅列は一体なにを意味するのでしょう?
確かに、今日の友引は危険な気がします。
けれど、私は頭がおかしくなってきているのでしょうか。
先ほどから何度も、死体の口を開けて歯を抜こうとしています。
これは正気の行いでしょうか。
そして、この文字の羅列の意味するのは、一体なんなのでしょうか?
私は、まだ迷い続けています。
結論
dr-kilio 2007/10/06 01:35:44
桐夫の歯を抜くべきかどうか、結論が出ました。
歯を抜こう
dr-kilio 2007/10/06 22:42:21
昨夜のことをお話ししましょう。
私は、ついに桐夫の29本目の歯を抜こうと考え、器具を携えて桐夫の遺体の前に座りました。
遺体は、もう棺に入れられていましたが、まだ蓋は釘打ちをされていませんでした。
私は棺に片足を入れ、桐夫の遺体の口を開いて中の綿を取り除くと、開口器で口を大きく開けて固定しました。
ただ、淡々と物事を進めるのだ。そこにどんな感情の入る余地も作ることはない。
何らかの感情が湧き上がりそうになっても、私はそれを押しとどめることができる。私はそう信じていました。
私は器具で桐夫の歯を挟み、引き抜こうとしました。もちろん、簡単に抜けるようなものではありません。
力を入れると、桐夫の体が持ち上がってしまいます。
最初は、左手で桐夫の額を押さえつつ、右手で歯を抜こうとしましたが、それでも抜けないので、今度は桐夫の額に膝を押しつけて力を入れました。
額を膝で固定するのは難しいため、膝の位置を次第に下げていって、最終的に目のくぼみに膝を持って行くことになりました。
その時、初めて押さえていた感情が吹き出してきました。
親しい友人の死体をこんなにも歪めさせ、挙げ句にその上に跨って目に膝を当てている。
その情景が頭の中をよぎった瞬間、体じゅうの皮膚から汗が噴き出してきました。
私は手を止め、桐夫の体から離れました。
一度棺から足を抜くと、その行為がいかに非道なものかがわかってきてしまいます
足を引き抜くときに、棺の中に入っていたわらじが足に絡んで転びそうになりました。まるで、桐夫が棺の中から私の足首を掴んだかのような錯覚を覚えました。
わらじを足首から外して棺に戻しながら、あながちそれが錯覚でもないような気がしてきました。
桐夫のお葬式を進めながら、私には何か引っかかっていたものがありました。
それが何なのか、自分でもよくわかりませんでした。
でもその時、その正体がわかったような気がしたのです。
下駄箱
dr-kilio 2007/10/06 23:30:44
私は玄関の下駄箱へ向かっていました。
桐夫の靴はそれほど多くなかったので、目的のものはすぐにみつかりました。
やはり、桐夫は私に向けたメッセージを靴の中に隠していたのです。あの学生の頃のように。
その紙片は2枚ありました。
1枚目は、こんな文章で始まっていました。
「Yへ 君がこの手紙を読んでいるということは、私はすでに遠いところにいるということだろう。そうならないことを願いつつ、この手紙を先へ進めよう。しかし、不思議なものだ。読まれないことを願いつつ手紙を書くということは」
そう、果たして私はこの手紙を読んでしまっています。
手紙には、桐夫の苦しみが滲んでいました。
「このところ、書くことが辛くなってきている。私のことをよく知っている君には信じがたいことかもしれない。
学生の頃、私は書くことによって精神の均衡を保っていた。今もそのことに変わりはない。
書かなくては、私は私でなくなってしまう。けれど、書くことが日に日に苦行になってきている。私は私でなくなってきているのだろうか。
そうであればなお一層、書き続けなくてはならないのだ。私を支配しようとする力に破れないためにも」
1枚目は、ここで終わっていました。
長い雨
dr-kilio 2007/10/07 00:33:44
そしてもう1枚の手紙にメッセージは移ります。
「こんな風に2枚に分けて書く必要はないのだが、先ほどの手紙で書くことが辛くて断念せざるを得なくなってしまった。
このように、あまり長い時間書き続けることができなくなってしまった。
私の頭の中の混沌は、長く降り続ける雨のようだ。たまに、雨の合間にわずかな晴れ間が見える。その晴れ間が、頭が明晰になる瞬間なのだ。
今もあまり長く書くことはできない。いつまた長い雨が降るかしれないからだ。
私の前歯の裏には奇妙な歯が生えている。その歯のことはブログに書いてある。その内容を読んだ君は、きっとこの歯をどうしようかと迷うだろう。もしかしたら、抜こうと考えるかもしれない。
けれど、それはやめてほしい。この歯には、何か底知れない力が宿っている。抜いたところで、君に処分できるようなものではない。この世に災いを生み出すだけだ。
私がもはや自分で何事も判断できなくなってしまっていても、あるいは私が君に抜いてほしいと懇願しても、それだけはやめてもらいたい。
この歯は最期まで私が持ち続け、私の死体を焼くときに一緒に焼いてほしい。
この歯の持っている禍々しい力は、私が自分の責任で処分する。
どうか、私の最期の望みを叶えてほしい。
信頼する友 Yへ
桐夫より
失敗しない作戦
dr-kilio 2007/10/07 01:54:04
靴の中の手紙はこれで終わりでした。
私たちは学生の頃から、作戦を立て、靴の中の手紙でそれを伝え合っていました。
作戦を練るのは、いつも桐夫の方でした。
私はその指示に従って、一度も失敗することはありませんでした。
桐夫の作戦はいつも正しかったのです。
そして、今回はその最期の作戦でした。
歯を抜くな。
私は、桐夫の作戦に従うべきなのでしょうか。
それとも。
私は、深夜の玄関でしばらく腰を下ろしていました。
信頼
dr-kilio 2007/10/07 03:04:44
そして、結論に達したのです。
私は、金槌を持って桐夫のいる部屋に向かいました。
そして、棺の蓋を打ちつけました。
信頼する友 桐夫のために。
もう二度と、そのような迷いを起こさないように、私は棺を閉じたのです。
私は最後まで桐夫の指示に従いました。
桐夫は、常に正しい選択をしてきました。最後にそれが誤る理由などあるでしょうか。
たとえ、桐夫の頭の中が長い驟雨に満たされていたとしても、誤っていた、と言える根拠がどこにあるでしょう。
私たちは信頼し合っていました。
理由がなければ、この信頼こそが判断の基準なのです。
私たちは、長い時間で様々なものを失いました。けれど、信頼だけは失わずに桐夫の棺に入れることができました。
昨日の深夜の話です。
鍵屋のこと
dr-kilio 2007/10/08 00:50:04
]
桐夫の埋葬の時が近づいています。
その前に、皆さんへのお話を済ませないといけません。
話は8月12日の夕方に戻ります。
桐夫は鍵屋が待っていたと思っていたようですが、実際は私が待っていたのです。
そこで、私はある人物に会いました。
鍵屋です。
私と鍵屋は、桐夫の玄関先で長いこと話をしました。
鍵屋は、私が桐夫の古くからの友人だと知ると、まさにうってつけの相談相手を見つけたのでしょう、お守りの中の歯を帰してほしい、ということを訴えてきました。
私は、そこで初めて29本目の歯のことを知りました。
その歯が何か人間が及びもつかない強い力を持っていること、特にそれが満月と新月の夜に力を強めること、それによって自分の家庭が守られていること、などを鍵屋の口から聞きました。
私は、俄には信じられませんでした。
けれど、鍵屋の必死な思いにだけは、何か尋常ならざるものを感じました。
その後、鍵屋の発した言葉に、追いつめられている、彼の不安な状況を知りました。
なんと彼は明日、桐夫の家に忍び込むというのです。
私は何度も彼を止めました。けれど彼はもう決心していたようです。
今日、桐夫に会えなければ、明日忍び込んで歯を取り戻すつもりで、ここに来たのだと告げました。
明日は新月、歯の力が最も強くなっている時だからこそ、自分を守ってくれるはずだ、明日しかチャンスはない。彼はそう主張しました。
何度説得しても、彼の気持ちは変わりませんでした。
確かに彼は何度も桐夫に拒まれてきていました。
もはや、私の言葉に耳を貸すような状態ではありませんでした。
そこで、私はあることを思いつきました。
靴を渡す
dr-kilio 2007/10/08 01:26:10
私は、鍵屋に少し時間をもらうと桐夫の家を離れ、商店街で便箋とペンを買い、手紙を書きました。その後、靴屋を探してスニーカーを一足買いました。
スニーカーに履き替えると、今まで履いていた靴の中敷きの下に、先ほど書いた手紙を入れました。
この作業を済ませると、私は桐夫の家に戻り、待っていた鍵屋に靴を渡しました。
もし、明日桐夫の家に入るようなことになったら、この靴を玄関に置いてきてほしい、と。
鍵屋は、何も言わずにそれを受け取ると、その場を立ち去りました。
私は、まさかその翌日に鍵屋が殺されるとは、想像もしませんでした。
漠然とした期待
dr-kilio 2007/10/08 02:40:36
桐夫のなかに、子供の頃のようなもう一人の人格が生まれてきていることはわかっていました。
しかも、それが小学校の頃よりも、ずっと確かな形をした人格であることも。
そのころ私の推測は、桐夫が鍵屋の歯を持っているがために、おかしな行動を繰り返しているのだ、というものでした。
その歯と桐夫のもう一人の人格が、一体どのような関係を持っているのかはわかりません。
ただ、何らかの関係があるのだろうと想像しました。
だから、鍵屋が歯を取り戻せば、すべては徐々に元に戻っていく。そんな漠然とした期待を持っていました。
だから、私は鍵屋が桐夫の家に忍び込むなどという無謀な行動に、強く反対することはできなかったのでしょう。
その誤りに気づくまでには、もう少し時間が必要でした。
ただ、桐夫へ送ったメッセージに気づくまでは、彼は元に戻っていない、という確証はありました。
いつになったら、桐夫が気づいて電話をしてくるのか。
私は、彼のことを気に掛けながら、手を差し伸べられずにいたのです。
桐夫の物語
dr-kilio 2007/10/09 00:47:35
明後日には、桐夫の埋葬です。
先を急がなくてはならないでしょう。
桐夫は、このノートパソコンにあの女が触れている、と書いています。
キーボードの消毒までしています。
けれど桐夫が死ぬまでの間、このノートパソコンに触れていたのは、桐夫ただ一人だったのです。
「あの女」など、どこにもいませんでした。
それは、桐夫が生み出したもう一人の人格だったのです。
けれど、彼はそれに気づいていなかったのです。
今回の人格は、小学校の頃のものとは違い、もっと凶暴で強大なものでした。
それは、人を殺すほどの圧倒的な力を持った存在だったのです。
桐夫は自分の家の中で、初めて死体をみつけた時に、衝撃のあまり判断能力を失ってしまいます。
その後、彼は自分の中でひとつの整合性を持った物語を作り上げます。
それが、死んだ女受刑者の霊が家の中を徘徊して殺人を繰り返している、というものでした。
しかし、女の霊とは、桐夫の中の別の人格の投影に過ぎなかったのです。
彼は、毎日必死にブログを書き続けました。
それは彼が作り出した物語でした。
物語が続く限り、桐夫は桐夫というひとつの人格のままでいられました。
彼は彼自身が崩壊しないために、ひたすらブログを書き続けたのです。
その苦悩、その葛藤、その苛立ち。
いま、桐夫のブログを読み返すと、日々その積み重ねに見えてきます。
→次の夜
9月16日の電話
dr-kilio 2007/10/09 01:27:24
私は私なりに、結論を導き出したつもりでいました。
けれど、問題がひとつだけ残っていました。
29本目の歯のことです。
私は、鍵屋から歯のことを聞かされて、その存在は知っていました。
その歯が何かの力を持っていて、それが桐夫の別の人格に働きかけているのではないか。
歯が月齢に左右されることから、その人格も同じように月齢に左右されている。
ここまでは、私の推測できた範囲でした。
けれど、それは正しい結論ではありませんでした。
事態は、9月16日に急変します。
その日、私の携帯電話に見知らぬ人間から電話がありました。
Hくんです。
Hくんは、桐夫から携帯の番号を聞いたのだと話しました。
そして、9月11日の晩に、桐夫の家で起こった出来事を話し始めたのです。
夜明けまで
dr-kilio 2007/10/09 02:09:08
その日、深夜に桐夫の家を訪ねたHくんは、荒れ放題の室内にまず驚いたようでした。
同時に、桐夫の異変にもすぐに気づいたようです。
まず、足を怪我して引きずっているのに、そのことを聞かれると全く答えようとしないことが不思議でした。
さらに、桐夫の内面も大きく変わっていました。
以前のような優しい面も持ちながら、突然返事が素っ気なくなったり乱暴な態度を取ったりと、とにかく落ち着きがなくなっていた、ということです。
以前の先生とは違う。
Hくんは、次第に桐夫が恐くなったようです。
夜明けまで、あと2時間。
そこで、なるべく桐夫が喜ぶ方向へ話を向けるように努力しました。
自分が時々部屋に閉じこめられていること、そこで空想にふけっていること、厳しい父親のこと。
Hくんは、桐夫と自分が似た境遇にあることを知っていました。
そういう話をしている間、桐夫が以前と同じような表情になることもわかりました。
それは、桐夫が手紙の中で語っていた「雨の合間にわずかな晴れ間が見える」時だったのではないでしょうか。
Hくんは必死で話を続けました。
その時間の中で、桐夫は私の手紙を見せ、何かあったらここに電話するように伝えたと言うことです。
桐夫は桐夫なりに、必死でその夜を乗り越えようと努力していたのだと思います。
夜明けまで、あと1時間半。
桐夫は、次第に自分で自分をコントロールできなくなってきていたことでしょう。
Hくんにも、それは伝わってきたということです。
彼は、父親に対する反抗的な思いから、親知らずの話をしてみました。
その時、いきなり桐夫は29本目の歯を見せたのだといいます。
私は、その電話で初めてその事実を知ります。
桐夫にも、29本目の歯が生えていた。
私は衝撃を受けました。
前回の削除
dr-kilio 2007/10/09 04:12:07
やはり前の回は削除させてください。
読んだ方も、忘れて下さい。
あのようなことは書かない方がよかった。
→次の夜
桐夫と一緒に
dr-kilio 2007/10/09 22:51:15
長い間、桐夫のブログを読んでくださった皆さん。誠にありがとうございます。
明日、このノートパソコンは桐夫の骨と一緒に埋葬します。
私は、電源を入れたまま墓石の下に入れようかと思っています。
明後日は、新月です。
桐夫の最後の夜
dr-kilio 2007/10/10 00:33:59
明日には、桐夫は埋葬されます。
私は、霊魂とかあの世とかを信じる人間ではありません。
だから、今夜が桐夫と過ごす最後の夜です。
もう二度と、彼とは会うことはないのです。
桐夫の最後の夜の話をさせてください。
桐夫は、様々な不可思議な現象を自分とは別の人間が起こしているのだという物語を作ることによって、逃れようとしました。
けれど、桐夫の作り出した女の人格は、次第に桐夫を支配しようとしてきていました。
最期の日が近づくにつれ、桐夫のブログには女の影が強くなってきます。
そのことに気づき始めた桐夫は、さぞかし苦しんだことでしょう。
その苦悩の跡が、ブログからも読み取れます。
さらに、次の満月は9月27日と迫ってきていました。
その日に達する前に手を打たなくては間に合わなくなる。
そう考えた桐夫は、9月24日に自らの命を絶つことにしたのです。
家の中で唯一残された鏡である母親の手鏡を覗き込んだ桐夫は、そこに女の姿を見たに違いありません。
自分の人格が女の人格に支配される前に、自らその存在を抹殺しようとしたのでしょう。
桐夫らしい結論の出し方です。
ばかげた話
dr-kilio 2007/10/10 02:13:55
けれど、わからないことが一つだけあります。
桐夫に生えてきた29本目の歯のことです。
鍵屋の母親の話、女受刑者の話、いずれも29本目の歯がその人間の人格を変えていました。
だとすれば、桐夫の性格もこの歯によって変わっていった、ということでしょうか。
しかも、桐夫は女受刑者に噛みつかれることによって、29本目の歯を成長させています。
この歯には、何らかの力が宿っていて、それを持つ者の性格を変えてしまう。また、この歯に噛まれることによって、その力が噛まれた人間にも伝染してしまう。
現象を捉えるのであれば、このように考えられます。
しかし、そんなことが信じられるでしょうか。
まもなく、このブログも終わりになります。
明日は埋葬です。
桐夫は火葬されて灰になります。
それですべてが無になるのです。
私は、霊魂とかあの世とかを信じる人間ではありません。
でも、もしあの歯に、霊が宿っていたと考えるならば、私が長年貫いてきたこの信念も崩れることになります。
全くばかげた話です。
でも、このばかげた話が、どうしても頭から離れないのです。
なぜそんなものに囚われているのか、
その理由がいまわかりました。
それは、希望だからです。
このばかげた話を信じたとき、
私は桐夫が救われるという希望を持つことができるのです。
それは、禍々しさに裏打ちされた希望なのかもしれません。
けれど今の私は、
信念より希望を取りたいのです。
明日は長いお別れの日です。
→次の日
Hくんの指
dr-kilio 2007/10/10 14:07:55
先ほど、桐夫の棺は火葬の釜の中に入っていきました。
棺の中に、私は桐夫の作った歯の模型も入れました。
これで、あの禍々しい歯は、この世から消えてしまいます。
桐夫の体とあの歯が灰になるまで、今はただ待っているだけです。
もうすっかり秋めいてきた窓の外を眺めていると、煙突の煙を見上げている小学生の姿がありました。
あたりに親族らしい姿も見えません。
平日のこんな時間に、火葬場に一人でいる子供の姿は、どう考えても不自然です。
私の視線に気づくと、彼は軽く会釈をしました。
利発そうな表情に、礼儀正しい物腰。
一度電話で話したきりでしたが、私には、すぐにそれがHくんだとわかりました。
Hくんは、そのままその場を立ち去ろうとしました。
けれど、私には一つだけ確認しておきたいことがありました。
9月13日の桐夫のブログの中に、その疑問はあります。
私は慌ててHくんを追いかけました。
私は、彼の指を見たかったのです。
長いお別れ
dr-kilio 2007/10/10 15:11:30
いよいよ最後のブログです。
ノートパソコンも、もう葬儀業者に渡さなくてはなりません。
あとは、埋葬されるだけです。
私の役割が十分果たせたかどうかは疑問ですが、できうる範囲で説明をしたつもりです。
最後は、Hくんの話に戻しましょう。
結局、先ほどHくんの姿は見失ってしまいました。
私には、どうしても彼に確認しておきたかったことがありました。
彼が桐夫の家を訪れた晩のことです。
桐夫がHくんに29本目の歯を見せた後。
そこにおかしな記述があります。
どうか9月13日のブログを読み返してもらえないでしょうか。
このように書かれています。
「触ってもいいですか?」
私は頷いていた。
Hくんは遠慮がちに手を伸ばして、29本目の歯に触れた。
その後、どうなったのか、桐夫のブログには記憶がないと書かれています。
しかし、Hくんが歯に触れた時、桐夫が女受刑者と同じようにその口を強く閉じていたとしたら。
Hくんの指には、桐夫の歯の痕があるはずです。
私は、それを確認したかったのです。
もし、そうだとしたら。
いよいよこれで最後です。
桐夫を愛し、応援してくださった皆さん、長い間ありがとうございました。
オバケの話
dr-kilio 2007/10/10 17:14:08
はじめまして。Hです。
Yさんがこのパソコンを葬儀屋さんに渡したので、こっそり借りました。
桐夫先生に話したかったことをひとつだけ書きます。
僕が、お父さんに閉じこめられた部屋で考えたお話です。
それは、こんなお話でした。
むかし、地球がすごくぐちゃぐちゃだったころ、なんでも食べるオバケがいました。
オバケは、目の前のものを次から次へと食べて、食べて、食べまくりました。
遠くの森を食べて、草原の動物を食べて、海の魚を食べて、生き物がいなくなると、山を食べて川を食べて、海を食べて地面を食べて、食べて食べて食べていったら、もう自分のほかに食べるものがなくなってしまいました。
それでもオバケは食べることをやめませんでした。
自分だけになったオバケは、こんどは自分を食べ始めました。
足を食べて、手を食べて、お腹や背中を食べて、頭も耳も目も鼻も食べていきました。
最後に口だけになったオバケは、ついに唇も食べてしまいました。
そしたらとうとう食べるものがなくなって
歯だけが残りました。
明日、桐夫先生に借りていたものを返します。
監視カメラの前に置いてきます。
ごめんなさい。
。
dr-kilio 2007/10/12 00:32:59
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