戦慄の一夜 寝ずの番
場所 | 法多山尊永寺 |
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期間 | 7月6日(土)〜9月29日(日)の土日祝、8月13日(火)〜16日(金) |
守刀を鞘におさめ、お清の霊を鎮めよ
静岡 法多山 尊永寺でのお化け屋敷は今年で5回目になります。今回の舞台は通夜。
法多山ならではの、特殊なお化け屋敷が開演です。
通夜の夜、あなたが目撃し体験するのは・・? 何事もなく無事夜明けを迎えられるでしょうか?
詳しくは「戦慄の一夜 寝ずの番」公式ページをご確認ください
ストーリー
お通夜では、遺体の上に小刀を置くという習わしがあります。
昔は、遺体に魔が取り憑いて蘇ることがあると考えられていたため、それを防ぐために胸の上に置いたと言われています。この小刀を、「守刀」と言います。
ところが最近、ある村で、「お通夜が明けると遺体の守刀がずれている」「遺体の衣服が乱れている」「遺体の足に泥がついている」というような噂が広まってきました。
どうやら、通夜の遺体に何かが起こっているようです。
そこで、その村で通夜が営まれる夜、一人の僧侶が勇気ある者を伴って、寝ずの番をすることになりました。
果たして、その夜にどのようなことを目撃し、何を体験するのでしょうか?
そして、無事夜明けを迎えられるでしょうか?
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実は、その怪異の原因は、守刀にありました。
その昔、その地には一軒の薬屋がありました。
その薬屋の娘のお清が、幼い頃のことです。
その晩は、父親が薬を売りに出ていて不在でした。夜中に寝ていると、何か物音がします。目を覚ますと、隣で寝ている母親が声を出さないように合図を送ってきます。誰かが、店に忍び込んでいるようです。
母親は枕元にあった懐刀に手を伸ばし、それをお清に渡します。
「いいかい? 絶対声を出しちゃいけないよ。それでも何か危ないことがあったら、これで身を守るんだよ」
そう言うと、そっと布団を抜け出しました。
お清が言いつけ通り、布団の中で口を塞いでいると、店の方で大きな物音が響きました。忍び込んだ泥棒と母親が揉み合っているようです。やがて、その音も止みました。すると、誰かが部屋に入ってきます。お清は布団の中で震えています。
それは、母親だろうか? それとも、泥棒だろうか?
布団がそっと捲り上げられます。
お清は目を閉じたまま、守り刀をしっかり握っています。
ふと、土の匂いがしました。母親が湯上がりにつける天花粉の匂いとは違います。
お清の、懐刀を握る手に力がこもります。土の匂いは、顔の近くまで近づいてきます。
「ふっ」と鼻で笑うような息の音が聞こえました。
お清が目を開けると、目の前に男の顔がありました。
お清は布団をはねのけ、握っていた懐刀を男の首に向けて突き刺しました。
すっかり油断していた男は喉に刀を突き刺されたまま、床に転がって身悶えています。その隙に、お清は逃げ出して近所に助けを求めました。
けれど、母親は亡くなり、泥棒もお清の刀の傷によって、やがて命を落としました。
それ以来、お清は喉に何かがつかえたようになり、声が出なくなってしまいました。
お清が20歳になった頃、男手ひとつで育ててくれた父親が亡くなりました。
その葬儀の時です。読経にやってきた僧侶の中に、光道という若い寺男がいました。お通夜の支度も、その光道がやってくれます。
「いいですか? 今夜はお父さんに付き添って、このお線香を絶やさないように見守ってくださいね」
光道が話しかけますが、お清は声が出ないため返事ができません。
「どうしました? 心細いですか?」
光道が顔を覗き込むようにして、やさしく語りかけます。
「少し一緒にいましょうか?」
ふっと天花粉の匂いがしました。
その時、お清自身も驚くようなことが起きました。
「は、い……」
お清の口から、声が漏れたのです。
「そうですか。それでは、しばらく一緒におりますね」
お清の驚きにもかまわず、光道は当たり前のように話します。それが、一層お清の気持ちを和らげます。
いつしか、お清は10年以上もの沈黙が嘘のように、当たり前に話ができるようになっていました。お清は、急に外の世界が開けたような、これまで感じたことのない喜びに満たされました。
父親の死の悲しみは、声が出る喜びに入れ替わっていました。
けれど、お清が声を取り戻したのは、その夜だけのことでした。
光道が去った後は、それまでと同じように声が出ないのです。あの夜と同じようにしてみようと試みるのですが、全くうまくいきません。
自分の心を解してくれたのは、あの人だけだ。
そう思うと、お清は光道のことが恋しくてなりません。昼も夜も、頭をよぎるのは光道のことばかりです。
もう一度、あの人に会いたい。
そして、こう思いました。
またお通夜があれば、あの人がやってきてくれる。
光道を想う気持ちが、お清を暗い道へと導きます。
お清は使用人の男に、薬と称して毒を飲ませたのです。その男は、ひと月後に亡くなってしまいました。
その通夜の支度も、光道が行いました。光道と二人きりになると、前と同じようにお清の口から声が出ました。
お清は嬉しくてたまりません。
その夜も光道を引き留めて、夜が明けるまで話しこみました。
そんな時、必ず光道に訊くことがあります。
「私が死んだらお通夜に立ち会ってくれる?」
光道は、「何を言うんだ」と笑いながらも頷くのでした。
けれど、光道が立ち去ると、以前のお清に戻ってしまいます。
お清は、光道に会いたいがために、身近な人間に毒を盛ります。そして、その通夜で、光道との時間を過ごすのでした。
しかし、そんなことが長く続くわけもありません。
お清の周りでおかしなことが起こっている。お清が怪しい。
そんな噂が囁かれるようになりました。
お清自身も、自分の罪の重さに苦しみます。
光道さん、私にやさしくしてくれるな。やさしくしてくれるから声が出てしまう。声が出ると、あなたが恋しくなってしまう。どうか、やさしくしてくれるな。
そんなことを考えるのですが、もちろんそれは本心ではありません。
お清は、自分の中の葛藤に悶え苦しみ、出口を見失っていきます。
やがて、彼女はこう考えるようになります。すべては、何かが詰まっているような、この喉が悪いんだ。この喉の支えさえ取れれば、この苦しみから解き放たれる。
その時、目に留まったのは、あの懐刀でした。
幼い頃、泥棒の喉に刺した懐刀。これが全ての始まりだったんだ。
お清は、誘われるように懐刀を手に取りました。鞘を払うと、鈍い光が目の前に現れました。
お清の気持ちに躊躇はありませんでした。
懐刀を逆手に持つと、思い切り自分の喉に突き立てました。
この喉のつかえを取らないと。
お清は、何度も何度も喉に刀を突き立てます。
しかし、それで喉に詰まったものが取れるわけもありません。
やがて、お清は力尽き、喉に懐刀を突き立てたまま、息を引き取りました。
その想いの強さ故か、喉に刺さった懐刀は、引き抜こうとしても引き抜けなかったと言います。
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その村で最近使われ始めた守刀は、お清の深い無念がこもったその懐刀だったのです。
お清の怨念は、その妖刀を通して遺体に取り憑き、通夜の夜に家の中を彷徨い歩くのでした……。
概要
タイトル | 戦慄の一夜 寝ずの番 |
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URL | http://www.fukuroi-obake.com |
場 所 | 法多山尊永寺 |
期 間 | 7月6日(土)〜9月29日(日)の土日祝、8月13日(火)〜16日(金) |
時 間 | |
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